カブちゃん熊日ニュース~其の12「今の自分を見て」 胎児性水俣病患者の坂本さん 9月下旬に締約国会議 思い、力強く 水俣条約発効
「水銀に関する水俣条約」が、8月16日発効した。9月下旬、スイスのジュネーブで開催される第1回締約国会議に合わせ、胎児性水俣病患者の坂本しのぶさん(61)=水俣市=が現地入りする。坂本さんは条約が発効した同日、支援者に付き添われて同市内で会見。水俣病のような惨禍を「繰り返さないで」と訴える覚悟を力強く示した。 ▽
▽ 会見場は水俣病患者らが普段集う共同作業所「遠見の家」。詰め掛けた報道陣のカメラのフラッシュが光る中、坂本さんは手ぶりも交え、思いを込めた言葉をよどみなく重ねた。
坂本さんは条約の発効を「あまりうれしいとは思っていない」と考えている。「水俣病の問題は終わっていない。(水俣市内の)埋め立て地に残る水銀、裁判などで被害を訴える人たちのこと、きちんとしてほしいことはたくさんある」からだ。ただ、世界規模の水銀規制がスタートラインに立ったことは前向きに受け止める。
水俣病公式確認の1956年に生まれた。15歳だった72年、国連人間環境会議が開かれたスウェーデンのストックホルムに、母親で認定患者のフジエさん(92)や患者支援に生涯をささげた故原田正純医師らと渡航。身をもって被害の実態を世界に伝えた。 還暦を過ぎた今、以前より歩くのが困難になり、人の支えや歩行器が欠かせない。言葉も出づらくなり、健康や将来に不安がある。それでもスイス行きを決めた。「(胎児性患者の)みんなも同じ不安がある。今行かんといかんと思った」と使命感をにじませる。
世界に伝えたいことはたくさんある。水銀による健康被害や環境汚染からの回復は容易ではない。「私たちはそれを抱えて生きてきた。繰り返さないでほしい」「(会議の出席者は)世界中の被害者の立場に立って、きちんと話を聞いてほしい」 水俣病は、効率を優先する日本経済の構図の中で発生。人命を軽視した原因企業チッソと、水銀の放出を放置した国や県が引き起こし、坂本さんは胎内で被害を受けた。「娘を見てください」-。ストックホルムで母親のフジエさんは世界の学識者らに被害の深刻さを訴えた。 以来45年。スイス行きを目前に、「今の自分を見てほしい。人の命や健康、環境を大切にする人が少しでも増えればいい」。そんな切なる願いを胸に抱く。(隅川俊彦、福山聡一郎)